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Tryptophan operonで見られる2通りの転写制御とリボスイッチ

 この講義の内容は下記のYouTube サイト(生命科学を専攻する学生の為の分子生物学講義)で動画として視聴できます

https://www.youtube.com/watch?v=cMxkP2FISbY&list=PL_B52Q_vHW1Y0YgqMBs_HZXBbtISm3L7B&index=8

この講義は下記のような内容について解説しています。7枚の図を含んでいます。

1. トリプトファンオペロンにおける転写制御のメカニズム

2. アテニュエーター (attenuator)による転写減衰のメカニズム

3. リボスイッチ,RNAアプタマーの構造変化を利用した翻訳開始阻害

4. 大腸菌のthiMD オペロンにあるリボスイッチの働き

Key words: トリプトファンオペロン (tryptophan operon), リボスイッチ (riboswitch), RNAアプタマー (RNA aptamer),アテニュエーター (Attenuator), ribosome mediated attenuator, thiMD operon

1. Tryptophan濃度が低い場合のTrp-operonの転写

大腸菌では、アミノ酸の一種であるTryptophan を合成するために、Tryptophan operonがあります。  Tryptophan operonには、Tryptophanの合成遺伝子として、trpEからtrpAまで5つの遺伝子がcodeされています。 また、転写調整領域には、trp Lという14アミノ酸の短いペプチドを作るopen reading frameがあります。 また、このTryptophan operonの上流には、調節遺伝子であるtrpRが存在し、常に発現されています。 その産物は、転写のrepressorとして機能します。

まず、Tryptophanが細胞質中に低濃度でしか存在しない場合、このrepressorの多くに Tryptophan付着しておらず,オリジナルなままの立体構造をしていて、DNAのオペレーター配列に結合することができません。そのため,プロモーターに結合したRNA polymeraseは、転写を正常に進行することが可能で,Tryptophanの合成に必要な遺伝子群が転写されます。そのため,細胞質中のTryptophan濃度はやがて上昇することになります。

2. Tryptophan 濃度が高い場合のTrp-operonの転写

一方,Tryptophan が細胞質中に高濃度で存在する場合には、このrepressorタンパクの多くにTryptophan が結合し,Tryptophan が結合したrepressorの立体構造は変化します。

この変化した立体構造を持つrepressorは、operatorに付着することができるので、プロモーターにRNA polymeraseが結合し,転写を開始しても,その下流にあるTryptophan合成に必要な遺伝子群を転写することはできません。そのため、Tryptophan の濃度はやがて現象することになります。

Ribosome-mediated attenuation

翻訳スピードの違いが作り出す2通りのmRNAの立体構造:RNA polymeraseの離脱を促すhairpin 構造の出現

3. リボソームの翻訳スピードが関与したTryptophan operonの転写調整

この機構を説明するために、Tryptophan operonのLeader sequence regionについて詳しく説明をしていきます。Leader sequence regionは4つのドメインから構成されています。 第1ドメインには、14アミノ酸基から構成される短いペプチドがcodeされています。ドメイン1にcodeされている14アミノ酸残基からなるペプチドには,Tryptophan が2回も含まれているという点で,非常に特徴的な配列です。アミノ酸としてTryptophan は 使用頻度の少ないアミノ酸で,およそ100アミノ酸残基中に 1回程度の使用頻度しかありません。それにもかかわらず 短い14アミノ酸残基の中で 2回も出現するというのは,その出現頻度から考えて非常に特徴的だと言えます。

また,これらのドメインは、ドメイン毎の相補的な配列のために,興味深い立体構造をとることができます。 ドメイン2とドメイ3は、中図に示したようなヘアピン構造を作ることができます。 また、ドメイン3とドメイン4も、下図に示したようなヘアピン構造を作ることができます。つまりドメイン3はドメイン2とも、ドメイン4ともヘアピン構造を作れる配列を持っています。このようなLeader sequence regionがTryptophan の生合成を担う,trpEからtrpA遺伝子の上流に配置されています。

4. Trp濃度が低い場合の転写と翻訳の関係性

Tryptophanの濃度が低い場合の転写と翻訳の関係性について考えていこうと思います。Tryptophan の濃度が低いわけですから,operator配列にrepressorは付着していないので プロモーターからRNA polymeraseは operator配列を通過して mRNA合成を順調に進みます。 この図の示したように,リボソームがドメイン1にcodeされている 14ペプチドの部分を翻訳しています。

細胞質中のTryptophan の濃度が低いので, Tryptophan codonを翻訳しようとしても,なかなかリボソームの中にTryptophan をチャージしたtRNAが入ってきません。そのため,リボソームはここで Tryptophan codonを翻訳するために足止めを食らうということになります。 その間にもRNA polymeraseは 順調に転写を進めていくということになり, リボソームとRNA polymeraseの間隔が広がった状態が生じます。

それにより,ドメイン2とドメイン3の間でヘアピンが形成されています。このヘアピン構造は,RNA polymeraseから遠い位置にあるので,その転写の進行に影響を与えません。

5. Trp濃度が高い場合の転写と翻訳の関係性

一方で、トリプノの濃度が高い場合の転写と翻訳の関係性について説明をしていきます。 この場合は、リーダーペプチド領域に含まれている2つのTryptophan codonを翻訳するのにあまり時間がかかりません。 したがって、リボソームの位置とRNA polymeraseの位置関係を見ますと、この2つの装置の間隔は比較的短いものとなります。 それによって、ドメイン3とドメイン4でヘアピン構造を作ることになります。

RNA polymeraseのすぐ後ろに、配置されたアピン構造は,ρ因子independentな転写終結シグナルとして働く場合があります。それにより,RNA polymeraseが転写途中のDNA配列から離脱し,転写が不完全な状態で終結することになります。これが転写量の減衰,アテニエーションとよばれる現象です。 このような仕組みをribosome mediated attenuationと呼んでいます。

このようにTryptophan 濃度が高い場合は、repressorの立体構造が変化してオペレーターに付着してRNA polymeraseの移動を止めるという他に、既に合成が開始されたmRNAに対しても、その転写反応を途中で止めることができます。細菌では,Tryptophan 濃度が高い状態においては,このような2通りのメカニズムを使ってTryptophan operonの転写を抑制しています。

6. リボスイッチ による翻訳開始の制御: 特定の低分子有機化合物を付着させるRNAの立体構造

mRNAの二次構造が転写の継続を妨げるという話をしましたので,それに関連する話題としてリボスイッチ (Riboswitch)についても解説をしたいと思います。 リボスイッチというのは短いRNA配列、RNAアプタマー (Aptamer)と呼ばれる短いRNA分子を用いて,細胞内の低分子代謝物の濃度を検出し,RNAアプタマーの下流に配置されている遺伝子の発現を抑制するようなフィードバック機構を指しています。

これがリボスイッチのイメージ図です。mRNAの5’-末端部に複数のヘアピン構造が配置され,複雑な立体構造を作っています。 mRNAの5’-末端部が左側のような構造をしている場合には,Ribosome Binding Site (RBS)が露出していますのでリボソームはmRNAの翻訳を始めることができます。

ところが、この遺伝子が転写されて作られた低分子量産物が高濃度になると,その物質(図中ではLigandと表記されている)これがリボスイッチに付着します。それによって,5’末端のRNAの立体構造が変化をし,Ribosome Binding Site (RBS)がヘアピン配列の一部となります。この状態では,リボソームのmRNAへの付着効率が低下することになります。

これが,リボスイッチによる翻訳のonと offのメカニズムです。リボスイッチ配列は,特定の低分子代謝物を特異的に吸着するので,RNAアプタマー (Aptamer)の一種ということになります。リボスイッチは細菌の全遺伝子中,およそ4%に存在しています。

7. 大腸菌における具体的なリボスイッチの例: thiMD operon

大腸菌における具体的なリボスイッチの例を説明していこうと思います。 大腸菌ではチアミンピロリン酸 (TPP)の生産に関わる遺伝子としてthiMthiDという2つのkinase (リン酸基転移酵素)をコードする遺伝子があります。これらの2つのkinase遺伝子はoperonを構成していてthiMD-operonと呼ばれています。このoperonから転写されたmRNAの5’-末端にはRNAアプタマー構造が付加されており、それがリボスイッチとして働いています。

産物であるTTPが低濃度の場合は,リボスイッチはA図に示した構造をしていて、mRNAの翻訳は正常に進行します。ところがTPP濃度が細胞内で高くなりますと、TPPがこのリボスイッチに付着して,B図のような立体構造に変化します。この立体構造では,Ribosome Binding Siteと翻訳開始のAUG codonがヘアピン構造の中に埋め込まれてしまっているため,翻訳の開始が阻害されています。

このようにTTP濃度が高いときには、そのメッセンジャーRNAの翻訳が妨げられることで,TPPの生産が抑制されています。

8. RNAアプタマーの一種としてのRiboswitch

別の図を使って説明をします。チアミンピロリン酸 (TPP)が付いていない状態では、 Ribosome Binding Siteと翻訳開始コドンは露出していますから、 翻訳は正常に開始することができます。

ところが、チアミンピロリン酸 (TPP)の濃度が高くなると、 mRNAの5’-末端にあるこのRNAアプタマーにチアミンピロリン酸 (TPP)結合して、その立体構造が変化します。立体構造が変わることによって、Ribosome Binding Site、翻訳開始codonがヘアピン構造の中に埋もれてしまうので、正常な翻訳開始ができない状態に変化します。このようなリボスイッチの機構は、細菌ばかりでなく真核生物でも使われています。

これでTryptophan operonおよびリボスイッチの解説を終わります。

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