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LactoseとGlucoseが共存する場合のLactose-operonの転写調節機構

この講義は下記のYouTubeサイト(生命科学を専攻する学生の為の分子生物学講義)で動画として閲覧できます

https://www.youtube.com/watch?v=FWozvhhVkOY&list=PL_B52Q_vHW1Y0YgqMBs_HZXBbtISm3L7B&index=7

1. この講義は下記のような内容を含みます

1. ラクトースオペロンの構造遺伝子と転写調節領域の構造

2. 転写調節遺伝子,リプレッサータンパク

3. グルコースとラクトースがある時のlac-operonの転写

4. グルコースがなくラクトースのみがある時のlac-operonの転写

5. cAMPとCAP (Catabolite Activator Protein, 異化活性化タンパク質, cAMP receptor protein)複合体のCAP siteへの結合

Key words: 転写調節領域, cAMP, Catabolite Activator Protein (CAP), adenylate cyclase, lacY, lacZ, lacA

2. 大腸菌のlactose-operonの構造と上流の転写調節遺伝子の機能

大腸菌のlactose-operon構成について説明をしていきます。 lactose-operonには、構造遺伝子領域と転写調節領域があります。 構造遺伝子領域には、lac-Z、lac-Y、lac-Aと呼ばれる3つのタンパク遺伝子があります。 それぞれβ-galactosidase、permease、transacetylaseをコードしています。 このうち、β- galactosidaseは、2糖類の一種であるlactose (=乳糖)を単糖のブドウ糖(=グルコース)とガラクトースに分解する構造です。 permeaseは、lactoseを細胞内に取り込むという活性を持った酵素です。 transacetylaseは、アセチル化酵素の一種なのですが、lactoseの代謝との関係性はよくわかっていません。

また、lactose-operonの上流に転写調節遺伝子というのがあります。 そこにはlacIと呼ばれる遺伝子があります。 このIは、inducible (誘導性)の略だと言われています。 lacI の産物は、転写の阻害に働く,リプレッサタンパクです。

lactose-operonの転写物は、オペレーター配列と3つのタンパク遺伝子を含んでいるポリシストロニックなmRNAということになります。このmRNAに含まれる3つの遺伝子はそれぞれのAUGコドンから個別に翻訳が開始されStopで終了します。

また、lacI遺伝子は常に転写翻訳されているので、その産物であるリプレッサータンパクは,細胞内に常に一定量存在するということになります。このリプレッサーによる構造遺伝子の転写調節のメカニズムについて説明します。

3. ラクトースが培地中にない時のlac-operonの転写抑制

まずはラクトースが培地中にない時のlactose-operonの転写について説明をします。 代謝すべきラクートスがないわけですから、そのために必要な酵素を作らないのが,合理的だということになります。

ラクトースの有無に関わらず,リプレッサータンパクは常に細胞質中に供給されています。 このリプレッサータンパクは調節領域にあるlacOと示されたオペレーター領域のDNA配列に親和性があり、その配列に強く付着することができます。オペレーター領域にリプレッサータンパクが付着しますと、構造遺伝子の転写のためのプロモーター領域にRNA polymeraseが付着しても、その下流にある構造遺伝子の転写を進めることはできません。

そのため,ラクトースが培地にない場合には,ラクトスの代謝に必要な3つの構造遺伝子の転写というのは起こらない合理的な仕組みになっています。

4. リプレッサータンパク結合によるオペレーター領域のループ構造化

リプレッサータンパクについて、もう少し説明を加えていきます。lacI遺伝子の産物がリプレッサータンパクですが、リプレッサータンパクは4量体を作ります。

4量体を形成したリプレッサータンパクは、オペレーター領域のDNA配列に強く付着します。 強く付着して、DNAを曲げてループ化します。 DNAがこのような構造をとると、その上流にありますプロモータ配列に、たとえRNA polymeraseが付着しても、その下流を転写することはできなくなります。

こういうふうにして、lacIの産物であるリプレッサーは、構造遺伝子の転写を妨げています。

5. 単糖と2糖が共存する場合のlac-operonの転写頻度の抑制

次に、培地中に2糖であるラクトース(乳糖)があって、なおかつ単糖のグルコース(ブドウ糖)が高濃度にあるような場合のlactose-operonの転写について説明をします。 単糖のグルコースと2糖のラクトースの両方が培地中にあるなら、単糖のグルコースを分解してエネルギーを得る方が効率的なエネルギー生産が可能です。

このような条件下においては,ラクトースがあるのにも関わらずlac-operonの構造遺伝子の転写は抑制されます。この機構について説明をします。

6. Glucose濃度低下によるcyclic AMP(cAMP)の増加

グルコースの濃度が低下するとcyclic AMP (cAMP)の濃度が上昇します。グルコースの濃度が低くなってくるとアデニル酸シクラーゼにより,ATPからcyclic AMPが作られます。

また,細胞中には常にcyclic AMPと結合するタンパクとしてCatabolite Activator Protein (CAP)があります。cyclic AMP-CAP複合体は,特定のDNA配列に結合してRNA-polymeraseの転写頻度を上昇させます。

この現象を利用して,lac-operonの構造遺伝子の転写は調整されています。

7. CAP-cAMP複合体による転写頻度の調節機構: Glucose 濃度が低い場合

lac-operonの転写調節領域には,すでに説明したoperator領域の他に,promoter 配列の上流にCAP-binding siteがあります。

cyclic AMP-CAP複合体はこのサイトに結合することができます。複合体がキャップサイトに結合すると,RNA-polymeraseは,プロモーターに安定的に結合できるようになます.

したがって,ラクトースがありグルコース濃度が低い場合は,lac-operonの活転写が活発に行われ, 培地中のラクトースの分解が進みます。

8. ラクトースが培地中あってGlucose の濃度が低い場合の活発なlac-operonの転写

lac-operonの転写調節領域には,リプレッサーが付着するoperator領域の他に,promoter 配列の上流にCAP-binding siteがあります。cyclic AMP-CAP複合体はこのサイトに結合することができます。

複合体がCAP siteに結合すると,RNA-polymeraseはプロモーターに安定的に結合できるようになます。また。グルコース濃度が低い場合は,cyclic AMP濃度が高くなっています。

その結果,cyclic AMP-CAP複合体が高濃度になり, lac-operonの活転写が活発に行われ, 培地中のラクトースの分解が進みます。

9. CAP-cAMP複合体による転写頻度の調節機構: Glucose 濃度が高い場合

一方で,グルコース濃度が高い場合にはcAMPは低いままで,cAMP-CAP複合体は形成されないので,CAP-binding siteにCAPは付着することができません。

この状態では,RNA-polymeraseのプロモーターへの付着効率は低いので,下流にあるlac-構造遺伝子の転写は不活発になります。

10. ラクトースと高濃度のGlucoseが共存する時の不活発な転写

CAP-cAMP複合体が形成されない結果,ラクトースがあっても,lac-operonの転写は限定的になります。そのため,lactoseの代謝は不活発になります。

このように単糖のグルコースと2糖のラクトースが共存するような場合,代謝が簡単なグルコースを優先的に代謝して, グルコースがなくなると次にラクトースを代謝するために必要な酵素の転写が起こるという,非常に 巧妙な転写調節が行われているということがわかります。

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