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植物における生殖様式の交代・生活環

この講義の内容は下記のYouTubeサイト(再生リスト:生命科学を専攻する学生の為の分子生物学講義)で動画として視聴できます

https://youtu.be/SeS_RaXXR0U

1. この講義は以下の内容について解説をしています

1. 減数分裂と核相の変化

2. 生殖様式と生殖様式の世代交代

3. 動物の生活環

4. シダの生活環 (胞子体,胞子嚢,前葉体,配偶体,造成器,造卵器)

5. 被子植物の生活環 (花粉,雄性配偶体,雌性配偶体,小胞子,大胞子)

6. 重複受精 (2次核,胚乳,精細胞)

7. 単細胞緑藻クラミドモナスの生活環 (栄養細胞,接合子)

Keywords: 核相,体細胞分裂,減数分裂,有性生殖,無性生殖,シダ,胞子体,前葉体,造精器,造卵器,単相世代,複相世代,被子植物,胞子体,胞子嚢,花粉母細胞,大胞子母細胞,雄性配偶体,雌性配偶体,精細胞,中央細胞,2次核,重複受精,胚,胚嚢減数分裂

2. ヒトの核相の変化

まずは核相について説明をします。ある生物種にとって必須な遺伝子のセットがゲノムです。細胞内に1ゲノムセットが含まれている場合,その細胞の核相はn (1n),あるいは単相であると呼ばれます。細胞内に2ゲノムセットが含まれている場合は,2n,あるいは複相と呼ばれます。

ヒトの場合,体細胞には2ゲノムセットが含まれているので,複相,2nの細胞です。1ゲノムセットは22本の常染色体と1本の性染色体(X or Y)で構成されているのでn=23と表現されます。一方,精子や卵の核相は単相,nの細胞です。

3. 体細胞分裂:自分と同じ細胞をつくる分裂

体細胞分裂で細胞の数が増える場合,増殖した細胞は増殖前の細胞と同じ核相を持っています。また,遺伝的にも同じなので,それぞれの細胞はクローンの関係になっています。

体細胞分裂により2nの細胞から2nの細胞が作れて,nの細胞からnの細胞が作れます。また,ごくまれに核相3nの体細胞を持つ生物種がありますが,この場合,3nの細胞から3nの細胞が形成されます。

4. 減数分裂:染色体数が半分になるようは細胞分裂

一方で細胞のゲノムセットが半減するような分裂様式があり,減数分裂と呼ばれます。2nの細胞からは,減数分裂によりn の細胞が作られます。元の細胞が4nであれば2nの細胞が作られます。

単相の細胞や3nの細胞は減数分裂によって,新たな細胞を作ることができません。減数分裂では,相同染色体が対合して2価染色体を形成する事が必要ですが,n や3nの細胞では,それができないからです。

減数分裂によって作られる細胞は,多くの動物では精子や卵子(卵)です。しかし,植物では減数分裂で生じる細胞は胞子であって,生殖細部ではありません。

5. 生殖様式の世代交代

生殖様式には有性生殖と無性生殖があります。動物の場合,減数分裂により生殖細部が形成され,それが受精することにより両親とは異なる遺伝子セットを持つ個体が作り出されます。精子や卵を形成する動物の体は有性世代に属していることになります。

一方,無性生殖では1つの個体が単独で新しい個体を形成します。形成されたそれぞれの個体は遺伝的に同じなので,クローンということになります。

同一種の中で,有性生殖をする世代と無性生殖をする世代が交互に現れる場合があります。これは,生殖様式の世代交代と呼ばれます。

陸上植物では明確な生殖様式の世代交代が見られます。ヒトなどの高等物では有性生殖のみが行われます。

6. 動物の有性生殖の例: カエル

この図はカエルの生活環を示しています。カエルの体は2nの細胞で構成されています。オスの精巣内部にある2nの精母細胞が減数分裂により,核相nの精子が形成されます。いったん,精子になると,精子が細胞分裂を起こして,精子から精子がつくられるというような細胞分裂はおこりません。精子は2nの精母細胞からしか作られません。

メスの卵巣内部にある2nの卵母細胞が減数分裂により,核相nの卵が形成されます。いったん,卵になると,卵が細胞分裂を起こして,卵から卵がつくられる事はありません。卵は2nの卵母細胞からしか作られません。

精子と卵が受精(=接合)して,精子内の核と卵内の核が融合することで2nの核を持つ細胞が形成されます。この細胞が体細胞分裂を繰り返して,細胞の数を増やし,分化することで器官や組織が形成されます。このような生活環では,精子や卵はカエルの組織から直接作られるので,カエル本体は有性世代であり,無性世代はカエル生活環には存在しません。

7. シダ植物の主な器官

次にシダの生活環にいて説明します。私達が目にするシダ植物は2n細胞で構成されています。その葉の裏側には,胞子嚢と呼ばれる器官があります。この胞子嚢の中で減数分裂により核相nの胞子が作られます。胞子を形成する本体という意味で,私たちが普段,目にするシダ植物は胞子体とも呼ばれます。

胞子嚢で作られた,胞子は土の上におちて,そこで細胞分裂を繰り返して単相の細胞から構成される前葉体を形成します 。前葉体は,およそ1 cmぐらいの大きさでハート型をしています。前葉体を形成する細胞の一部が分化して,造卵器や造精器となります。

8. シダの生活環

シダの生活環を見てみましょう。胞子体の葉の裏にある胞子嚢の中で,減数分裂により核相nの胞子が形成されます。地上に落ちた胞子は発芽して,細胞分裂を繰り返し,細胞の数を増やして前葉体を形成します。

前葉体の造精器の中で細胞の分化により精子が,造卵器の中では卵が形成されます。前葉体も,またその一部である造卵器,造成器を構成している細胞も核相は全てnです。核相nの細胞を基に細胞の性質が変化することにより精子や卵が形成されます。

動物の場合,2n細胞を基に精子や卵が形成される場合は減数分裂が必要ですが,核相nの細胞を基に精子や卵子が形成されるには,細胞の性質の変化のみで,それが可能です。

前葉体の造精器で作られた精子は,雨水などによって他の前葉体の造精器にたどりつき,受精がおこり2nの受精卵が形成されます。この受精卵は,体細胞分裂を繰り返して,細胞の数を増やし,やがて胞子体になります。

9. シダの生活環:生殖様式の世代交代

前葉体の一部から精子や卵が形成されるので,前葉体は有性生殖をする世代です。精子や卵は,配偶子とも呼ばれます。従って,配偶子を作るのでシダの前葉体は配偶体の一種です。

一方,シダの本体である胞子体は胞子を形成しますが,胞子にはオス,メスの性がないので無性世代です。シダでは有性生殖をする世代と無性生殖をする世代が交互に出現します。これは生殖様式の世代交代と呼ばれます。

10. シダの生活環の概念図

シダの生活環をもう少し一般化して模式的に示したのがこの図です。2nの胞子体を形成している細胞の一部が,減数分裂により単相の胞子を作ります。1nの胞子が細胞分裂を繰り返して,配偶体(=シダの場合は前葉体と呼ばれる)を形成します。配偶体の一部の細胞の性質が変化して配偶子(精子や卵)となります。配偶子をつくる配偶体は有性世代です。

配偶子の接合(受精)により2nの受精卵が作られます。受精卵は体細胞分裂により,細胞の数を増やして胞子体を形成します。胞子体の一部の細胞が減数分裂により単相の胞子を作ります。胞子にはオス,メスの区別がないので胞子をつくる胞子体は無性世代に属します。

11. 被子植物の器官と重複受精の概要

被子植物の受精について解説します。被子植物の胚珠組織の中に卵細胞が形成されます。また,葯(やく)のなかで花粉が形成されます。花粉が柱頭に付着して,花粉管を伸ばし,花粉管の中に形成された2個の1n精細胞の一つが卵に到達して,受精が起き2nの胚が生成されます。

もう一つの精細胞が2nの2次核と合体して3nの核を形成します。この3n核をもった細胞が胚乳になります。2つの受精が同時におきるので,重複受精と呼ばれています。

12. 被子植物における生殖細胞の形成過程

被子植物において精細胞や卵細胞が生成される過程を詳しく見ていきましょう。葯のなかで,2nの花粉母細胞が減数分裂をして,未成熟な花粉が形成されます。この花粉細胞が柱頭に付着すると細胞分裂を起こし,花粉管核細胞と雄原細胞となります。雄原細胞は,更に細胞分裂を起こし単相の精細胞が2個形成されます。2つの精細胞は花粉管核細胞に飲み込まれます。

従って,1つの成熟した花粉管核細胞の中には,1個の花粉管核と2個の精細胞があります。内部に精細胞を持つ成熟した花粉細胞(=花粉管核細胞)は,雄性配偶体あるいは小配偶体と呼ぼれます。

胚珠の中で2nの胚嚢母細部(=大胞子母細胞)が減数分裂をすることにより,4個の1n細胞が形成されますが,そのうち1個のみが選択されて1nの大胞子細胞となります。大胞子細胞が3回の核分裂を起こすことにより,最終的に8個の1n核が形成されます。最終的には, 3つの反足細胞,2個の助細胞,1個の卵細胞,1個の中央細胞が形成されます。中央細胞のみ2個の1n核を持っています。この2個の1n核が核融合を起こして2nの2次核となります。

このようにして,胚珠のなかに胚嚢が形成されます。胚嚢の内部には卵細胞が含まれているので,胚嚢は雌性配偶体あるいは大配偶体とも呼ばれます。

13. 被子植物の重複受精と胚乳の形成

花粉管核細胞の中の花粉菅核は受精に関与せず,消失します。2個の1n精細胞のうち1つは卵と合体して2nの受精卵を生成し,やがて胚になります。もう1つの精細胞は2nの2次核と合体して3nの核となり,やがて胚乳になります。

14. 被子植物の生活環模式図

被子植物の生活環を模式的に表すとこのような図にまとめられます。

被子植物の本体は胞子体に相当します。胞子体の細胞の一部は花粉母細胞(=小胞子母細胞)となり,また一部の細胞は胚嚢母細胞(=大胞子母細胞)となります。

花粉母細胞と胚嚢母細胞は減数分裂により,大胞子と小胞子(=未成熟な花粉)となります。小胞子と大胞子は,複数回の細胞分裂により精細胞をもつ雄性配偶体と卵細胞をもつ雌性配偶体が形成されます。精細胞と卵細胞が受精することにより受精卵が生成され,細胞分裂を繰り返すことで胚が形成され,やがて胞子体になります。

15. 単細胞緑藻クラミドモナスの生活環

単細胞緑藻の1種であるクラミドモナスの生活環を説明します。

栄養が十分にある場合,単相の栄養細胞が分裂を繰り返し1n細胞が増殖します。栄養状態が悪くなると,細胞は生殖細胞に変化します。やがてオスの細胞(mt+)とメスの細胞(mt-)は接合して2n接合子が形成されます。この2n細胞は細胞分裂をして数を増やすことがありません。そのまま,栄養状態がよくなるのを待ちます。

環境中の栄養分が増加すれば,接合子は減数分裂により2個の単相のオス細胞(mt+)と2個の単相のメス細胞(mt-)を形成します。これらの単相の細胞は,栄養細胞であり細胞分裂により1n細胞の数を増やします。

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